移住者インタビュー②
公開日:
平野 斗志雄さん
小石原南区の皿山地区に移住された平野さんにインタビューしました。

なぜ東峰村に移住することになりましたか?
僕は静かな環境で慎ましく暮らしたいという気持ちがありました。以前は東京に住んでいたんですが、周りはビルばかりで静かな環境がなかったんです。出身は千葉県船橋市で市街地なので、森は全然なくて、木々といっても植樹された人工的なものが生えている公園があるくらい。本当の自然は全然ないような場所でした。だから自然のあるところでゆっくり暮らしてみたいという気持ちがきっかけです。それと、僕は勉強に集中したいタイプで、千葉に住んでいた頃は騒がしさが嫌で、勉強するときは耳栓をして何も聞こえない状態でやっていたりしました。そういう意味でも、静かなところで集中できる環境を求めていました。
東峰村は静かですか?
本当に静かですね。千葉にいた時はバイクが通ったり、車の音がしたり、夜中でもバイトから帰ってくる学生が歌いながら帰ってきてうるさいなと思うことがありました。
直接的なきっかけは?
前職は東京で、伝統工芸品を専門的に販売するお店で働いていて、全国の工芸品をお客さんに紹介したり販売したりしていました。そのとき自分も工芸品が好きになって、いろんな産地を見に行ったんです。東北のこけしや焼物の産地などを回って、焼物や他の工芸品を見に行く旅をしました。そんな時、店にアテンドとして来られていた小石原焼の窯元の方と知り合いました。それまではまだ九州に来たことはなかったのですが、東峰村のことを聞いたとき、すごくいい場所だなと思ったんです。移住先はいろんな選択肢がありましたが、せっかく知り合ったし、静かな環境がいいなと思っていたところに声をかけてもらったので、ここにしようかと思いました。
実際に村に訪れた時の印象はどうでしたか?
最初に小石原に来たのが1月で、たまたま雪が降った日で、とにかく寒いなというのが最初の印象でした。あとは焼物が好きだったので、窯元がたくさんあってワクワクして楽しい、という感じでした。
九州は南だから暖かいという印象がありますよね
僕も南国のイメージがありました。小石原は九州の北海道って言われているよと聞いて、最初はピンときませんでしたが、今年の2月にすごい雪が降ったときに、ああ、こういうことかと思いました。ここは標高が500メートルくらいあるので、同じ福岡県でも都市部とこちらでは3度か4度、それ以上に違うと思います。
今、お仕事は何をされていますか?
家から徒歩2、3分のところに柚子胡椒を作っているオーシャンフーズという会社があって、移住した時、タイミングよく社員の募集をしていたので連絡したら採用していただきました。仕事は全く決まっていない状態で移住してきたので運が良かったと思います。柚子胡椒は山伏が作っていたものがルーツとも言われている様です。小石原は英彦山の山伏との関係が強いと言われていますが、僕は神社や寺、修験道など日本の信仰形態に元々興味があったので、そういう文化に関わる仕事ができるのもよかったなと思っています。
自然や寺社仏閣、伝統工芸に興味があるようですが、大学ではそういった勉強をされていたんですか?
大学の頃はそういうことは考えてなくて、商学部でビジネス、マーケティングを勉強していました。もともとは一般的な良い会社に入りたいという思いで大学に入ったんですけど、就活期に自己分析をしていく中で、自分はデザインや芸術の方に向いているんじゃないかと思い、普通の就職を選ばずデザインの勉強を独学で始めようと思いました。大学卒業後は東京のオークション会社でいろんな美術品を扱える仕事を見つけて、そこで働きながら夜は夜間の学校でデザインの勉強をしていました。その時、いろんな美術品の中に茶道具や日本の古美術と呼ばれるジャンルがあって、それがすごくいいなと思ったんです。もっと深く工芸品、日本のいろんな場所で作られるものを知りたいと思いました。工芸品は日本の風土や四季、自然の中で育まれてきたもので、神社や寺、山、信仰などもかなり深く関わっていると感じて、いろんな産地を見て回っているうちに、もっと日本のことを知りたいと思う様になりました。
村には自然や伝統工芸品、文化や歴史など色々な素材がありますが、それらを活用した今後の展開とか考えていますか?
もちろん窯元さんにお願いして自分でデザインしたものを作ってもらうとかはしたいと思います。もっと言うと自分で作りたいという気持ちもありますが、今はそれら工芸品の背景と言うか、日本の昔からの伝統的なものをもっと勉強したい、学びたいっていうのが強いです。例えば和歌とか俳句とか、あとはそれこそお茶の世界だったり。これらは本来、同時進行だと思うんですけど、自分は一つのことに集中してやりたいタイプなので、今はもっと学習したいという意欲が強いですね。また、「時は金なり」という言葉がありますけど、「時は命なり」という観点もあると思っています。結局、人生といえば時間なわけじゃないですか。だから、その1分1秒が命の連続みたいに思うと、その日、その時間を大切に生きていく。その中での濃度というか、どういったことをするのかっていうことに自分は価値があると思っています。
移住を検討されている方にアドバイスがあればお願いします。
もちろん都会が好きなら全然都会でいいと思っています。僕が伝えたい対象の人は、都会での暮らしがあんまり楽しくないとか、田舎にドライブとか旅行に行った時にすごい良いなって思ったりした人たちです。そういう人たちに対しては、決して都会での生活だけが正解じゃないよと伝えたい。田舎での生活はものすごく豊かだし、そこに価値を感じているなら一度行ってみることをお勧めします。田舎は若い人が少ないので、ある意味珍しがられる節もありますが、確実に必要とされています。そういう意味でも、気になっているなら田舎での暮らしっていうのも検討してみるといいんじゃないかなと思います。最近よく思いますが、日本全体が突っ走ってきた中で、今はちょっと振り返りながら日本の良さを改めて考えてみようというような時代でもあるかと思います。
確かにそう言う時代に来ているのかもしれませんね。平野さんの東峰村への移住はその流れの中にあるのかもしれないですね。
そうですね。僕もまだ一年も経ってないので、もっと村を深掘っていきたいなっていうのはあります。もっと豊かな自然に馴染みたいし、これからのことは具体的に全部が決まっているわけじゃないですけど、一応自分は目的を持ってきて移住しているで、その目的を日々こなしながら、この東峰村での生活の中で、自分ができることがあるなとか、自分がこう言うのがいいんじゃないかなと思ったりしたことで、実現させていけることがあれば、していきたいなって思っています。
実現することを期待していますね。今日はありがとうございました。
※インタビューの中では語られることがなかったが、平野さんは自然栽培による農業にも関心があり、この日も家庭菜園の土壌改良を目的とした竹炭作りをご近所の方と行っていた。平野さんにとっての田舎生活はますます興味深いものになっているように感じた。

